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2011年1月20日 (木)

「大人は、かく戦えり」という芝居

今、新国立劇場の小劇場でやっている「大人は、かく戦えり」という芝居のことです。

おもしろいです。よくできてます。それに、役者がいい。

観客は、爆笑の連続、息をのんだり、ハラハラしたり、ライブの芝居の醍醐味がたっぷりと味わえます。若い人向けというよりは、ちょっと大人向けですけど。

この戯曲は、ヤスミナ・レザというフランスの女性作家によって2006年に書かれ、すぐに評判を呼び、世界各国で次々に上演された話題作です。日本では、これが待望の初演ということになります。

登場人物は、二組の夫婦。

ウリエ夫妻とレイユ夫妻が、ウリエ家の居間で話し合いをしています。

レイユ家の息子がウリエ家の息子に怪我を負わせてしまったのです。

二組とも、地位も教養もあるブルジョアジー夫婦だけに、冷静で友好的にみえる態度で、子供の喧嘩の後始末に折り合いをつけようとしているのですが、ぎこちない会話にホンネが見えかくれし始め、徐々に互いの本性があらわになってきます。やがて壮絶な罵倒合戦になり、さらには、日頃それぞれの夫婦間に鬱積していた不満も爆発してしまいます。そして、舞台は収拾のつかない混乱へと向かうのです。

この芝居の成否は、キャスティングにかかっていたと思います。

というか、それぞれの役者の力量にかかっていたと云うべきでしょうか。

ともかく、ウリエ夫妻、大竹しのぶ、段田安則と、

レイユ夫妻、秋山菜津子、高橋克実の配役は最強でした。

一人一人の登場人物が、各俳優によって相当細かく造形されています。それによってその人格が伝わり、笑いにもつながります。客席が引っ張り込まれていくのは、そうしたリアリティの上に構築されたお話です。

観客は、休む間もなく、どこに行きつくともわからぬ4人を追いかけながら、この芝居の持っているひとつのテーマが、夫婦というものであるということに気付かされます。

先にこの芝居を観た、会社のFさんは私に、

「とても面白い芝居でしたが、ご夫婦では観られないほうがよいと思います。」

と言いました。ちなみに彼女は独身ですけど。

確かに、夫婦で気持ちよく笑って終わる芝居ではありませんね。後味がほろ苦いというかなんというか。もともとは他人の一組の男女(まれに男女じゃない場合もあるが)で構成された夫婦という形は、暮らしていくうちに、様々なズレやシコリがたまり、ある局面で、それが一気に表面化したりしますよね。

そのあたり、舞台ということもあって、誇張して描かれていたりしますが、本当にセリフも演技プランもよく練れていて、実感を込めてお見事と云わざるをえません。

ちょっと子供にはわからない、おとなの芝居とでも云うのでしょうが、昔、向田邦子さんが書いたTVドラマにも、こういう世界がよくあったように思います。

一緒に暮らす夫婦や家族が、あることをきっかけに、相手がかくしていた感情を知ることになり、ちょっと大きめの波風が起きるような話です。若かったころ、まだガキだった自分は、向田さんのドラマを観て、大人の世界を垣間見ていた気がします。

そのころ、一度も結婚をしたことのない向田さんが、何故あんなに見事に夫婦というものが描けるのか不思議だという話が、よく聞かれましたけど。その後、向田さんはエッセイや小説をお書きになり、そのあたりにどんどん磨きがかかり、多くの名作が生まれました。

そう考えてみると、かつてテレビには、もっと大人の鑑賞に耐えうるものが沢山あった気がしますね。

ちょっと話がそれちゃいましたけど・・・

 Otonahakakutatakaeri

 

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