小学生のときに観た黒澤映画
このところ、黒澤明監督の作品のリメイクが相次いでいます。現在上映中の「椿三十郎」、また今年の公開が決まっている「隠し砦の三悪人」。映画ではなくテレビでも、昨年「天国と地獄」と「生きる」が制作されました。「七人の侍」と「用心棒」は、とっくの昔に海外でリメイクされていますが、国内では、ここにきて一気にという感じがします。なにか連鎖反応のような気もします。かつて大ヒットした作品の魅力的なシナリオですし、いつかやりたいと思っていた関係者も多かったのでしょうか。
しかしながら、なんといっても、あの世界のクロサワが渾身をこめた、ものすごく完成度の高い映画をリメイクするのは、やはり勇気のいることだし、軽く決断できることでもなく、「赤信号、皆で渡ればこわくない。」みたいなところもあるのかもしれません。
映画のほうは、まだ観ておりませんが、テレビの方は、録画して観ました。やはり、本が良いので、しっかりしたドラマになっていました。公開された当時との時代のギャップは、うまく工夫されていたし、現代を代表する力のある役者さんたちがキャスティングされていて、なかなかに見ごたえがありました。そして、オリジナル作品に敬意を払った丁寧なつくりになっていると思いました。
ちなみに、オリジナル版の「天国と地獄」は、1963年の3月の公開です。私は小学2年生でした。ほんの子供でしたがものすごく興奮したのを覚えています。その後、何度もその映画を見ました。何回見ても、本当に面白くてよくできた映画です。
ここで、オリジナル版とリメイク版を比べてみても、意味のない事はよくわかります。でも、たとえ小学2年生であったとしても、その当時観客としてあの映画を観た者としては、どうしても比べてしまいます。そして、当時の黒澤映画にかけられたエネルギーが、いかに半端でなかったかを思い知るのです。
1963年からちょっとさかのぼりますと、1952年10月「生きる」、1954年4月「七人の侍」、1955年11月「生きものの記録」、1957年1月「蜘蛛巣城」、1957年9月「どん底」、1958年12月「隠し砦の三悪人」、1960年9月「悪い奴ほどよく眠る」、1961年4月「用心棒」、1962年1月「椿三十郎」となっています。ほぼ1年に1本のすごいラインナップです。
ともかく、黒澤さんは、脚本作りも、キャスティングも、ロケハンも、撮影も、映画に関するすべての仕事に対して、考えられるベストを尽くす監督です。いろんな逸話が残ってます。
「天国と地獄」では、物語の発端に重要な意味を持つ主人公の豪邸を、美術セットとしてつくっているのですが、同じ建物を、オープンに2箇所、スタジオに1箇所、合計3つ建てています。このことを知った上で映画を見ると、3つのセットが映画の中で完璧に機能していることがわかります。ほんの一例ですが、一事が万事こういう姿勢なのです。
「椿三十郎」のとき、私は小学1年生の観客でした。その時1回観たきりなのに、ずいぶん後に大人になってあらためて観た時、かなりの部分を正確に覚えていたことに驚きました。
40数年前、映画館は超満員。要所要所で、どよめきや爆笑が起こり、物語を、固唾を呑んで見守る観客たちがいました。そんな当時の空気も思い出しました。
リメイク版を御覧になった方も、御覧になってない方も、もしもオリジナル版を未だ観ていらっしゃらない方がございましたら、是非御覧いただきたい。
私がつべこべと申し上げていることが、わかっていただけるかと思います。
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