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2008年6月18日 (水)

オーケストラは人をつくる ベネズエラのユース・オーケストラ

このあいだ、一緒に仕事をしているクリエイティブディレクターのAZさんと話していたら、「去年、BSですごくいい番組を観たのだけど、ぜひもういっぺん観たいのだけど、どうしたらよいだろか。」と相談されました。

そんなに良い番組なら、私も観て見たいし、調べてみましたところ、意外に簡単に手に入れることができました。さっそく皆で、観はじめたのですが、ほんとに良いのです、このドキュメントが。

どういうお話かというと、南米ベネズエラのオーケストラの話なんですね。

ベネズエラでは、1975年頃から、全国に青少年のオーケストラをつくり始めたんだそうです。現在全国に90の開発センターがあって、それぞれに3~4のオーケストラと合唱団があるそうです。こういってはなんですが、ベネズエラという国は、けっして豊かな国ではありません。むしろ、貧困と麻薬と犯罪のイメージが強くあります。果たしてクラシックのオーケストラを聴く習慣があるのだろうか?

でも、これは、ある団体が意図的に始めたことでした。

この番組の中で、「かつてこの国において、芸術は、ある限られた階級の少数の人々にのみ、与えられていた。少人数から少人数へのコミュニケートだった。」と語られます。

子供たちは、演奏するための椅子にすわっても、足が床に届かぬ頃からオーケストラの一員になります。子供たちが、はじめて生の音楽に接する場面は感動的です。まるで乾いた砂漠に、水がしみこんでゆくようです。そして、彼らは夢中になって音を出しはじめます。楽器は宝物となり、かたときも離せません。そうやって音楽と出会った彼らは、めきめき上達します。もちろん個人差はありますが、そうやってオーケストラの一画を担うようになっていくのです。もはや、ベネズエラのオーケストラ音楽は、少数から少数へ伝わる芸術ではありません。現在24万人が参加しています。

子供たちは、自分の技術を磨くことによって得られる感動を知り、オーケストラという大きなチームの中における自分の存在の意味を学びます。このことにより、努力によって得られる達成感と、社会の中で自分が果たせる責任を知ることになるといいます。オーケストラが人をつくり社会を作るという意味がわかってきます。貧困と麻薬に犯されていた社会は、少しずつ変化し始めました。

このシステムが育てた人材は、確実に成果を上げはじめています。すばらしい才能が育ち、彼らが作り上げたオーケストラは、世界の観客たちから、音楽の専門家たちから、絶賛されています。ある著名な指揮者は、「クラシック音楽の未来にとって、最も重要な活動が、今どこで行われているかとたずねられたら、私はベネズエラと答えるでしょう。」と語っています。

貧しい子供たちに楽器を提供し、組織をつくり、オーケストラを育てることは、簡単なことではなかったでしょう。世界中からの支援を取り付けたそうです。日本からも音楽教育の専門家たちがたくさん参加し、感謝されたそうです。このシステムを南米諸国に拡げていく試みも、すでに始まっているようです。Cello_5

しかしながら、この番組を観て最も感動したところは、子供たちとクラシック音楽との出会いでした。音楽は理屈ではなく、彼らの魂に直接働きかけ、あっという間に取り込んでしまいました。

この出会いを演出した人たちこそが、このお話の主人公なのです。

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