寝る力
この頃少し涼しくなって思うのは、今年の夏の盛りの暑さは尋常でなかったなということと、あの頃から考えると最近はよく眠れるなということです。梅雨が明けてからしばらくは熱帯夜で、ずっと寝苦しかったですから。
エアコン掛けたりもするんですけど、やっぱり若い頃に比べると、寝る力が衰えてるというか、寝るのも能力というか体力なんだなとつくづく思えますね。若い時は、暑かろうが寒かろうが、どんな場所であろうが、寝るとなったら、寝るのに1分とかかりませんでしたからね。あれ何だったんでしょうかね。
いまは、わりと寝る間際に目が冴えてしまったり、夜中に目が覚めて眠れなくなったりということがたまにあります。たぶん歳のせいなんでしょうね。昔どんな時でも手品のように寝てしまえた先輩が、いまは睡眠導入剤を持ち歩いてたりしますし、そういうものなのでしょうか。かつては、それに加えて深酒でもしようものなら、ものすごく深いところの眠りに落ちていったものですが、いまはあんまり深酒して寝るとうなされたりしますからね。若い時はあなた、酒飲まないで寝るとうなされてたんですから。
あの頃、逆に寝ないで起きてる能力もすご高くて、だいたい2日や3日寝なくても平気でしたし、わりといつも睡眠時間が少なかったから、いざ寝ると眠りが深かったこともあるかもしてません。
なんかかつては、私達の仕事してる人は、今もそういうとこありますけど、寝ないことが自慢なところがあって、徹夜すると誇らしいみたいなとこがありましたね。
だいたいこの仕事始めた時に面接で、
「徹夜とかしても平気?」と聞かれたので、
「学校の課題で設計図面を書いた時に、3日寝なかったことがあります。」と云ったら、
「君、図面書いてる時はただ座ってるんでしょ。俺たちの仕事は走り回って3日くらい寝ないでいることがよくあるから。」
などと自慢げにおっしゃってましたから、鼻広げて。確かにその通りでしたけど。
あと、業界の超売れっ子クリエーターで、寝ないことで有名なS木さんという方は、
「今、寝るのはもったいないです、死んだらずっと寝れますから。」
とおっしゃったです。まあここまで行くと本物ですけど。
油断して寝てしまった失敗は枚挙にいとまがありません。中央線の最終で八王子のあたりで起こされて茫然とするのも一度や二度ではありませんし、東横線で渋谷と桜木町をどう考えても2往復して目が覚めたり、いろいろあります。
ずいぶん前ですけど、先代の市川猿之助のファンだったもので、歌舞伎座に芝居見物に行った時に、ちょうどその日が徹夜明けで、昼の部を観に行ったんですけど、まったく寝てなかったんですね。何とか間に合ったし、仕事が終わった開放感で、桟敷席でウイスキー飲んだのがいけなかったんですけど、踊りの部が始まったとたんに、眠りに落ちたんです。言い訳になりますが、お芝居の部の時はストーリーとかあるし、全然眠くならないんですが、踊りの部は、普段からうとうとしがちなんですね、わりと。
ただこの時は、崩れ落ちるように寝てしまったみたいで、猿之助さんが花道を去っていく時に、桟敷で寝崩れている私の方を、思いっきり睨んで行かれたそうです。そうなのです、桟敷席は花道のすぐ横だし、普通の席より一段高いところにあるから、非常に目立つんですね、ヘタすると照明もあたっちゃったりしますから。大失敗でした。
いわゆる慢性寝不足状態なので、いざ寝てしまうと、恐ろしく寝てしまうこともありました。やはりその頃に、ときどき仲間と京都に遊びに行くことがあったんですが、数日寝ないままで着いたことがありまして、泊り先は祇園のおばあさんがやっておられた小さな宿でしたけど、いわゆるチェックインとかチェックアウトとかもなく、好きなだけ寝て、起きたら湯豆腐にビールに熱燗という天国みたいなとこで、そこで17時間ほど寝続けました。宿の方もちょっと心配になって何度か覗いたと言うとられましたが、あられもない寝姿だったと思います。
今はとてもそんな芸当はできません。人間あきらかに、寝る力というのがありますですね。これは他の体力と同じで、年齢に関係があります。
この前、うちの息子が夜ふつうに寝て、次の日の夕方まで寝てましたが、いいかげんにせえとあきれつつ、ちょっと、うらやましくもありましたな、若さが。
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