ipadでみる「仁義なき戦い」
夏にあったゴルフコンペで、珍しいことに準優勝して、賞品でipad2が当たりまして、どうしたものかと思いながら、どうにか使い始めてみたんですね。いまだにこのipadの機能の100分の1も使ってないと思いますけど。
そして、ある時これで映画が観れることがわかったんですね。iTunes Storeにラインナップされてる映画なら、1回レンタル200円くらいで1本48時間は見放題ということで、
ipad持ち歩きながら、好きな時に好きなだけ観れるというのも魅力で、何か観てみようと思い、前から観なおそうと思っていた「仁義なき戦いシリーズ」を観はじめてみたんです。
これがなかなか新しい映画体験で、画はけっこうきれいだし、自分の顔の前に置いたり、持ったりしながら観れるので、けっこう迫力あるし、音はイヤホンだから、飛行機で映画観ているような状態で、ほんとに観たい時に観たいだけ堪能できるのです。そして、この「仁義なき戦いシリーズ」がまた、よくできています。
封切りは確か1973年。大ヒットしてすぐにシリーズ化され、その年のうちに、「広島死闘篇」「代理戦争」が続いて作られ、翌年に「頂上作戦」と「完結篇」まで作られ、短期間に5本全シリーズが上映されました。考えてみると、この頃はものすごいスピードで映画って作られてたんですね。
ただ、この頃、すでに映画産業の斜陽化は進んでいて、1971年には、日活はロマンポルノに切り替えたりと、各社苦戦を強いられていたと思います。東映もかつて人気だった任侠路線がかげりをみせ、新しい企画に悩んでいた時、このシリーズは観客を劇場に呼び戻しました。これをきっかけに、東映はいわゆる実録路線をスタートさせ、実際の暴力団の抗争事件を台本化していきます。仁義なき戦いシリーズは、ある広島やくざの親分が、刑務所の中で書いた手記がきっかけになっており、それを基に脚本家が実際に起きた事件を調べ上げて、相当しっかりとしたシナリオに仕上げているので、広島抗争史として誠にリアルな映画となっております。
実際、「完結篇」で描かれた第三次広島抗争の頃、私は広島市内の中学生でしたが、通学路が繁華街だったため、広島県警が、前夜に起きた抗争事件の現場検証をしているのを何度も見ました。パチンコ屋のガラス扉が粉々になっていたり、壁に弾がめり込んでたりいろいろですが、一般市民に流れ弾が当たったこともあり、絶対に夜の繁華街を歩かぬように云われていたと思います。
ある日うちに帰ったら、叔父さんが来ていて、喪服を着ていたので、
「おお、いま帰りじゃ。」
「誰が亡くなったん?」
「友達じゃ。」
「へえ、病気ねえ?」
「いいやあ、撃たれたんじゃあ、組のもんじゃったけえ。」
「えっ・・・・」
みたいな会話が、一般市民の普通の会話としてあったりします。
私の高校時代の友達で、街の中心部の酒屋の息子のK村君には、小さい時からいつもキャッチボールをしてくれた、隣の家のオジサンが、入浴中に拳銃で撃たれて亡くなった悲しい思い出があったり。
私が広島の中学に転校してきたその日に、私にけんかを売ってきたK君のお兄さんは、3学期になったころに、抗争で亡くなりました。
そんな背景もあり、普通の人より私の場合、臨場感強いかもしれませんけど、ともかく、映画はよくできております。
当時、40歳過ぎだった深作欣二監督は、まだヒット作はなかったけど、才能にあふれ、絶対にこの映画を当ててやろうとギラギラしていたし、シナリオも斬新、カメラワークも実験的でした。そして何より、当時は映画俳優という職業の人達が、大部屋も含めて非常に層が厚かったです。みなさん、スクリーンの中で、実在した人物を喜々として演じています。
主役の菅原文太さんはもとより、千葉真一さん、北大路欣也さん、松方弘樹さん、山城新伍さん、田中邦衛さん、梅宮辰夫さん、室田日出男さん、川谷拓三さん、成田三樹夫さん、渡瀬恒彦さん、加藤武さん、小林旭さん、そしてこの人も全シリーズに登場する重要な悪役・金子信雄さん等々。本当にいきいきと実録の人物が描かれております。また、広島弁がよく調べて研究されており、セリフに独特な世界観があります。
金子さんの役を、一時、三国連太郎さんで考えられていたり、主役の菅原さんの役は、当初東映初主演の、渡哲也さんで進んでいたこともあり。また、あまりに題材が危ないので、1作で打ち切ろうという話になったり、いろいろな試行錯誤がありながら、公開された映画は空前のヒットとなり、全5篇のシリーズは完成します。
「仁義なき戦い」は、クエンティン・タランティーノや、ジョン・ウーはじめ、日本の多くの映画監督にも大きな影響を与えました。2009年に実施した「キネマ旬報」の日本映画史上ベストテンという企画では、、歴代第5位に選ばれています。
私が広島から上京した1973年から始まったこのシリーズは、5本とも宮益坂の下の渋谷東映で観たと思います。それ以来、今回ipadの画面で一気に鑑賞しましたけど、十分に当時の興奮をよみがえらせることができました。
この映画のスタッフや俳優さんたちが、短期間にものすごい集中力と情熱で作った作品だということも改めてよく伝わってきました。
いまは、おじいさんになられたり、すでに鬼籍に入られた映画俳優の方々、とにかく皆、脂が乗り切ってメチャメチャかっこえかったです。広島弁、あんまり上手じゃない方もおられましたけど、ご愛嬌ですかね。
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