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2021年10月29日 (金)

7歳の僕を揺さぶった映画のはなし

私たちの世代は、日本の映画産業最盛期の頃に生まれておりまして、昭和30年前後ですが。
昭和33年(1958年)に、年間映画動員人数はピークを迎え、11億人を突破しております。
映画館数も7000館を超えたようでして、そんなことなので、小さい子供の頃から映画館は身近だったんですが、当然一人で入っていけるもんでもなく、当時観た映画というのは、大抵オヤジに連れていかれてました。それ以外の当時の名作は、ずっと後になって、リバイバルや名画座やビデオなんかで見たものです。ただ、うちのオヤジはかなり映画が好きだったようで、他に娯楽もなかったんだろうけど、私はけっこう映画館にお供してます。たくさん見た映画の中には、洋画で字幕の読めないものや、子供には難解なものも含まれてたんですが、映画に行くのはとにかく好きで、おとなしくしてたから、よく連れてってくれたんだと思います。
その中で、とにかく一番強烈に記憶に残っているのが、小学一年の時に観た「用心棒」と「椿三十郎」、小学二年の時に観た「天国と地獄」。いずれも絶頂期の黒澤明監督の映画でして、何度見直しても、その完成度の高さと、作品にに込められたスタッフキャストの熱量、そして、監督の表現における斬新な試みに、目を見張ります。

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大人でも、固唾を飲んだり、息止まったりしそうなシーンが満載で、最初から最後まで一気にたたみかけられますから、子供はなおさらです。多分、この3本は大袈裟に言うと、私のその後の人生に大きく影響したんじゃないかと思うんですね。ビデオもDVDもなかったころ、これらの映画は、その後ある程度大人になるまで、ずっと覚えてましたから。
いつだったか父に、
「親父が一年生の子供に、あんな映画を見せたのがもとで、こんな仕事することになったんで、そうじゃなきゃもうちょっと堅い仕事して生きてたと思うよ。」と、妙な言い訳したことありましたが。
ちょうどこの頃の黒澤さんは、すでに常に注目される大監督として油が乗り切っていて、これらの作品は黒澤プロダクションの制作ということで勝負かけてましたし、結果興業的にも大ヒットしています。これらの映画は、人間の諍いや確執や裏切りや策略、殺人や犯罪に麻薬など描かれており、大人向けの映画なんですが、観客が小さな子供でも、いきなり巻き込んでしまうパワーがあったんだと思います。

これらの映画がどう面白いのか、それは見ればすぐにわかることだから、語っても仕方ないんですが、ちょっとだけ語りますね。
ストーリーは、いろんな小説等に着想は得ているようですが、意外性に溢れたドラマに、展開を読めぬテンポの速い物語は、精度の高い脚本が練りに練られています。黒澤さんは脚本を完成させる過程で、信頼できる優秀な脚本家とチームを構成して、徹底的に本を仕上げます。
そして、様々な役が作られ、キャスティングがなされ、登場人物が造形されて行きます。このキャラクターは実に深くて魅力的です。
「用心棒」で登場する三十郎という素浪人を演じる三船敏郎は、1948年の「酔いどれ天使」から続く、黒澤組のメインキャラクターで、この役を水を得た魚のように生き生きと演じております。
そして観客の期待通りに続編も制作され、その「椿三十郎」は翌年公開されました。ここで一言申しますと、同じ主人公の続編と云えど全くタッチの違う映画になっており、この2作目もかなりの名作です。いずれにしてもこの主人公は三船さんを想定して書かれていますよね。
そして、満を持して黒澤映画に登場するのが、仲代達矢でして、「用心棒」の卯之助も「椿三十郎」の室戸半兵衛も、お話の中では完全なヒールなんですけど、その造形は実に見事です。このキャスティングも絶妙なんですね。
そして、その脇を固める役者さんたちの見事さです。この頃の日本の俳優陣と言うのは、相当に層が厚かったと思いますね。色々と絶賛したい配役があって説明したいのですが、これ書き出すとキリがないのでやめます。
そのキャストの渾身の芝居を受け止めているのが、有名な黒澤組の技術スタッフ達でして、どのパートもちょっとどうかしてるプロフェッショナルなわけです。見直してると、ところどころでついついため息が出るほどです。
そして「椿三十郎」の翌年、小学二年生の私は、「天国と地獄」で、また息を呑むことになります。こちらはまた打って変わって現代劇、子供の誘拐事件を描く超力作で、これも大ヒットしました。主人公はこの事件を通しての被害者で製靴会社の重役、権藤氏で三船さんが演じてます。事件解決に奔走する捜査本部の中心、戸倉警部役に仲代さん。仲代さんは時代劇の悪役から反転します。このお話の背景には格差社会の構造的な問題があり、その辺り鋭ク描かれていて、ポン・ジュノの「パラサイト 半地下の家族」は、多分この映画が参考になってるんだろうと思いますね。ポン・ジュノさんは、黒澤さんの映画全部見てそうですし。
この事件の憎むべき犯罪者・竹内銀次郎にキャスティングされたのが、当時新人で、この役を演じて一躍注目を浴びた山﨑努さんです。子供心に、この犯人は怖くて、その存在も映像も相当にインパクトがありまして、かなりしっかりと記憶に刻み込まれました。
その後、年を重ね、TVや映画に山崎さんが出演されてるといつも見ていて、気がつけばファンになってました。それからしばらくして、私も大人になり、30歳になった時に、なんと、ある仕事でその山崎さんとお会いすることになります。
ここまで長くなりましたので、この後の話は、また次の機会とします。
ちなみに、1963年の「天国と地獄」公開時、
黒澤さん53歳、三船さん42歳、仲代さん30歳、山崎さん26歳、、、、、私8歳です。

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