不思議の露天風呂
私が時たま寄せて頂き、お世話になっている信州のトシオさんの山小屋の近くには、温泉がたくさんあって、それも楽しませていただいております。その中でも比較的よく行くところに、「尖石温泉 縄文の湯」(とがりいしおんせん じょうもんのゆ)と云うのがありまして、近くに縄文遺跡があるのでこういう呼び名なのですが、湯量も多くてとても快適で、露天風呂も設けてあります。これがどの季節もなかなかに気持ち良くてですね、行けば露天で長湯いたしております。
先月のある日も、トシオさんとヤマちゃん先輩と3人で機嫌良く浸かっておったのですが、人気のお風呂だし、夕方でまあまあ混んではいたものの、それほどツメツメでもなく、まあゆったりと露天風呂にいたのは7〜8人ほどでした。
すると、その中の一人の知らないおじさんが、と云っても、こちらもよくわからないおじさんではあるのですが、こちらの方をじっと見ておられまして、ついに視線が合います。
「うん?」と思っていると、「ムカイさん?」と、私の名をお呼びになる。
「あっ、イマムラさん?」と、申しましたらば、両方で、
「ハイッ、ハイッ、ハイッ!」となりまして、
そうなんです、この方 イマムラさんという有名な映像ディレクターでして、私とは同年代で、かつて何度か仕事でお世話になっておりました。このところ何年もお会いしてなかったけれど、年賀状などのご挨拶は続いていた方です。そう言えば、この近くのリゾート地の森の中に居場所を移してみますというお知らせはちょっと前にいただいていたんですが、まさか、よりによってこの露天風呂に一緒に浸かっていたとは。いや、お互い驚いて、しばらく風呂の中で4人で盛り上がったようなことです。今回は無理だったのですが、必ずや近いうちにこの森で再会して呑みましょうと約束を交わして別れましたが、それにしても、この時にこの場所で出会う確率というのは、どれくらいのもんだろうかと思ったのですね。
この温泉にはよく来ると言っても、たぶん年に2、3回だし、露天に浸かっている時間は、せいぜい30分40分くらいのものです。そもそもその人がこんなところにいるとは、夢にも思ってないわけですから。
それで、この露天風呂には別の話があって、また思い出したんですが、私3年前の秋に、全く同じ場所、縄文の湯・露天風呂の中で、高校時代の友人に会ってるんです。この人とは、さすがに高校時代以来とかではなく、その少し前に東京で10人くらいの同窓会をやった時に再会はしてたんですが、まさか温泉風呂で会うとは夢にも思っちゃないわけです。
その時も、この人がじっと私を見ているのに気付きます。あちらは4、5人でこちらは3人でしたが、なぜかこの人が私をじっと見ている。で、
「ムカイ?」「コガ?」と、お互い確認し合うまでは、まさかの半信半疑なわけです。見たことある顔だけど、そんなこたあないという気持ちの方が勝つんでしょうか。
私は例によってトシオさんの家に世話になってたんですが、この友人は結構大きな会社の社長をやっていて、部下たちと信州の休日を楽しんでいたようでした。
しかし、びっくりしました。これも確率ということで云えば、ほぼ起こり得ない話ですものね。
こんなことってあるんですねと云うことが、同じ露天風呂で3年間に2回起きたわけで、帰り道にトシオさんが、
「これもう一回あるかもよ。二度あることは三度あるっていうからね」と云いましたけど、
まさかね。でもちょっと、今度は誰かなと期待したりして。
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