焼き鳥といえば渋谷森本
物心が付いてからというもの、ずっと呑兵衛(のんべえ)でありまして、閑さえあればどっかで飲んでるような人で、どなたかから「ちょっと行く?」などと誘われてお断りしたこともなく、そりゃあこちらからお誘いすることも多々ありまして、また、お相手がいなきゃ、一人は一人でもいいもんで、その都度、酒を飲ませてくれる店を探して入っていくわけです。
そういう時、どの街でもすぐに見つかるのが焼き鳥屋です。縄暖簾かなんかをくぐって入ると、たいていカウンター席とちょっとしたテーブル席があって、カウンターの向こう側では、炭火かガス台でもうもうと煙を上げて焼き鳥が焼かれているわけです。その臭いは換気扇で店の外にあふれ、また新たな客を呼び込んでいるんですね。
それと、若い頃はなおさらなんですが、あんまり懐中(ふところ)の心配をしなくて良く、たまに高級店なんかもあるんですが、鮨屋ほどじゃないし、串1本いくらって書いてありますから、飲みながらでもだいたい勘定の見当もつくわけですよ。
そうしてみると、今までどんくらいの数の焼き鳥屋に行ったんだろうか、串は何本食べたんだろうか、その時に飲んだビールや日本酒やチューハイやなんやかや、どんくらい飲んだんだろうかなどと思うんですが、あんまり考えてもしょうがないことではあります。
ここ何年かコロナのこともあり、あんまり街をぶらぶら歩いて飲み歩くことがなくなりましたが、時々、無性にその店の焼き鳥が食べたくなるのが「渋谷森本」なんですね。
ここに行き始めたのがいつだったか、昔すぎて忘れましたが、20代の頃、誰かに連れて行かれたか、偶然入ったか、とにかくうまい焼き鳥だなと思ったのは確かで、そのうち私が働いていた新橋の会社の近くに森本の支店ができた時期があって、そこにもよく行ったんですね。
つくね、ひな皮、ゴンボ、砂きも、血きも、はつ、若鶏ねぎま、相鴨、うずら、笹身、なんこつ、しそ巻、東京軍鶏、手羽先、どれも一級品でその味は全く変わっていません。新橋店は、そのうちになくなったんですけど、渋谷はずっと健在でいつも満席です。井の頭線の渋谷駅のホームからもすぐ下に見えるわかりやすい場所にあって、ここは昭和47年からだそうですが、渋谷での創業は昭和23年と云います。
営業時間は日曜祭日を除く、16:00〜22:00で、昔17:00からのこともありましたが、ともかく開店すれば、夕方早くから、森本ファンたちで店はすぐにいっぱいになります。たいして広くないし、そういう店なんで、まず大勢で行くことはしませんで、せいぜい2人か3人、むしろ1人で行くことが多いですね。たいてい渋谷で映画や芝居を観る前とかに立ち寄ることも多かったです。それと、たとえ満席でも、座ってる客の後ろの壁に張り付いて待っていると、そのうちに空いた席に入れてもらえます。だいたいこの店には長居する客がいませんね。焼き鳥とか、そう何十本も食べられるもんでもないし、注文した分を食べ終わって追加注文がなければ、すぐに店員が勘定しにやって来ます。
酒だけダラダラ飲んで用も無いのに長っ尻で居座るような奴は、この店の客にはおりません。食って飲んだら、とっとと去って行くのが客の流儀なんですね。そういうスピードで店が用意したネタはどんどん売れて行くので、ちょっと遅い時間になれば、売り切れるネタもあり、だから、この店に夜遅くに寄るなどということはしないのですね。
こういう世の中になってから、呑兵衛オヤジのヤキトリナイトもままならないですけど、渋谷で芝居を観たり、夕方その辺りにいることがあると、ついついお邪魔します。そこでおとなしく串の5〜6本も頂戴して、レモンサワーの2杯もいただけば、とっとと失礼いたしておるわけです。
いずれにしても、私が若い頃からずっと、そのハイクオリティな味を保ちつづけている驚くべき焼き鳥屋さんなんですね。
やはり、個人的ランキングでは東京一なわけですが、やがて世の中が落ち着いて元の状態に戻っていけば、またインバウンドでたくさんの外国の方が訪れるようになりますね。外国の方達はことのほか焼き鳥が好きですから。それはいいんですけど、まあ、これからも、時々、オジサンが機嫌よく至福の小一時間を過ごさせていただくことができれば、それで十分であります。
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