創立30周年記念作品集
私事でなんなんですが、と云っても、ブログなんだからもともと私事なんですが、私の勤める会社が、今年の10月で創立30周年を迎えまして、私も最初からいたんで、会社が出来てから、30年経ったてことなんですけど、ちょっとあらためて、その膨大な時間に唖然としたわけです。そりゃ無事に存在できたことは、目出度いし、祝うべきことなんでしょうが、なんだかその実感というのが伴わないんですね。
ちょうど30年前というのは、1988年、思えば昭和の最後の年でしたが、仲間6人で、六本木の小さな一軒家で仕事を始めました。仕事はTVCMなどの映像制作で、会社の名前は、なんだか偉そうじゃないのがいいねということで、「spoon」としました。
そこからここまで、、まあ冷静に考えてみれば、たしかにいろいろあったわけで、創立当時40才だった社長は、今や名誉会長になり、今年古稀を迎えておられます。私だって34才でしたから、今は足す30ですからね。
ともかく、年月というのは、容赦なく分け隔てなく、流れていくもんです。
現在、社員は50人ほどおりまして、1年くらい前から、30周年には何か記念になることをしようという話になり、その一つとして、創立30周年記念作品集をつくることにしたんですね。まあこれは作品集なんで、毎年一冊作ってるんですけど、今年は一昨年から作品集の題名にしている「たべること、つくること」をテーマにして、ちょっと豪華版をつくることになったんです。
うちの会社は、映像など、モノをつくることが仕事で、そのあたりのことはプロとして当然詳しいわけですけど、なんだか、たべることにもすごく関心が高いんですね。
こっちの方は仕事ではないので、わりと趣味的に楽しんでるところはあるんですけど、なんかすごいプロ仕様のキッチンがあったりするわけです。
そういう流れの中で、この5年くらい、ある食の達人に加わっていただいて、週に一回「水曜食堂」という名のランチタイムを開いており、今回の記念作品集は、これを特集して取り上げようということになりました。最強のクリエイティブディレクターと、一流の編集者やデザイナーやイラストレーターやカメラマンに手伝っていただいて、一冊の作品集という名の冊子をつくることになったんです。
自画自賛となりますが、みんなの熱意で、これがなかなか良い本が出来上がりまして、創立記念日の10月4日には、お世話になった皆様に約800冊を発送いたしました。
その本の中に、私なりに30年を振り返って、文を載せました。
以下
“私たちの流儀”
30周年というのは、なんだか他人事のような気もするんですけど、よく考えてみますと、ここまで歩いてきたspoonの時間というのは、たしかに存在するわけであります。
なにか環境を変えて、新しいことにトライしたいという思いで、小さな船を漕ぎだしたのが、30年前でした。現実はなかなか厳しかったですが、本当に多くの方々に支えていただきながら、少しずつ自分たちなりの存在感を作れてきたかとも思います。
たくさんの得難い仲間もできました。いろいろな理由で、袂を分かっていった人達もいます。会社というものは、一時として同じ形をしていることは無いのだな、ということもよくわかりました。ただ、しだいに、spoonの個性のようなものは少しずつ定着してきたと思います。
そんな中で、いつの頃からか「たべること」というのは、私たちにとって大切なことになってきたんです。厳密には、食べること、飲むこと、食べものを自分たちで作ること、そして、それを通じて人と触れ合うことなんですが。
誰かに何かを食べてもらうプロセスは、日頃私たちが仕事としている、映像を作って誰かに届けるプロセスと、非常に似通っています。まあ、言ってみれば、本業も趣味も同じようなことをしている人たちということなのです。
食べもののことも、映像のことも、ここの人たちは本当に好きで、そのことであれば、いつまででも話をしています。この環境は、意図してそうしたというより、いつのまにか自然とそうなっていました。気がつくと、ちょっとびっくりするような燻製窯や焜炉台が屋上にできていたりするんですね。
つくづくそういう人たちが集まってるんだなと思いながら、spoonにも、同じ釜の飯を食いながら、人が育ってゆくフィールドのようなものが少しずつできてきたのかなという気がします。
モノを作る場所には、人が集まってきて、そこで人が育ってゆくのですが、spoonにとって「たべること」という要素は、そこに大きく関係しているのかもしれません。
何年か前に見つけた「たべること、つくること」というフレーズには、実に我々らしい深みのある意味合いが込められています。
それは、ひょっとして、大げさに云うと、僕らの“流儀”のようなものかもしれません。
長くこの仕事をやってきて思うのは、この仕事は面白いけど決して簡単な仕事ではないということです。いつも難問が待ち構えているし、ハードルは毎回高くなっていきます。それだけに乗り越えた時の喜びも大きいのだけれど、悩みも深く孤独な局面に出くわすことも多々あります。そんな時、僕らのモノを作る時の“流儀”に返ってみることは、解決のきっかけになるかもしれません。
さて、考えてみると、30年という時間は、大変な時間ですね。赤ちゃんが生まれて30才になってるわけですから。
それに、世の中的には、30年続いた会社は、けっこう珍しいのだそうです。
じゃあ、30年で会社は何を残すのか。僕らの会社の場合、映像の原版というのがあります。ものすごい数ですが、これは歳月でいずれ破棄され風化します。お金が貯まったか。それほどでもないし、なんかあればなくなります。所詮天下の回りものですし。
人材はいます。でも、これも時間とともに、入れ換わります。
そう考えてみると、さっきの“流儀”みたいなものは残るかもしれませんね。
これはある意味“イズム”みたいなもんですからね。
30年目、私たちが掲げているのは、「たべること、つくること」
これ、意外に持つかもしれません。大事にしましょ。
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