断酒
どういうわけか、2月の1ヶ月間、酒やめることになったんですね。
きっかけは、昨年末の人間ドックで、腸にポリープが見つかりまして、2月の初めに切除することになり、内視鏡でやるんですけど、そのあと自宅で1週間ほど大人しくしてなきゃいけなくて、まあ、その間酒飲んじゃいけないわけです。
ので、禁酒の予定は1週間だったんですが、そのまま1ヶ月酒を断ってみないかと、ある方からそそのかされたんですね。その人はAZさんと云って、今はリタイアされてるんですが、かつて広告を制作されていて、伝説のCMプランナーと云われた人なんですけど、私が昔から尊敬してる先輩で、今は酒飲み仲間なんです。
AZさんは2月に酒抜くことにしたみたいで、どうしてそういうことしようと思ったのか聞いてみたんですが、この方、最近お医者さんのお友達が多くて、かなり人間の身体に関しての医学的知識を身に付けられてまして、まあ、もともと知識には貪欲な方なんですけど、こんなふうに云われるわけですよ。
「お互い60年以上生きてるわけで、その間、人間の内臓というのは、休みなく働き続けてるんだよね。寝てる間もです。そこに、毎日のように酒を飲み続けてきたのね。彼らにしてみたら、勘弁してほしいわけですよ。ここに来て1ヶ月くらい酒をやめてあげると、ずいぶん長年の疲れが取れるんじゃないかと思ったわけよ。」
「じゃ、なんで2月にしようと思ったわけですか。」
「それは、一年のうちで2月が一番日数が短いじゃない。」
「はあ」
「実際それやると、かなり内臓の機能は回復するみたいよ。」
と。
それで、もう一つ思い出したことがあって、1月にある人から年賀状が来たんですが、この人も業界の大先輩で、音楽プロデューサーのA田さんというんですけど、“ちょい”じゃない悪オヤジで、昔から、飲む打つ買うの三拍子の人なんですね。で、年賀状の文面ですが、
「元気でお過ごしですか。
私、昨年末にめずらしく体調を崩し緊急入院。
16日間の絶食と点滴生活・・・・・。
おかげで血圧と体重が正常値に戻った。
おまけに“有馬記念”も的中と大忙し。
現在リハビリの毎日です。
2016年 健康で平和な良い年であります様に。」
とありました。あまり反省は感じられないのですが、良かったです。そういえば、この人、今まで酒切らしたことなかったと思いますよ。
確かにそうです。習慣ということもありますけど、もうずいぶん長いこと酒飲み続けてますもんね。
ちなみに、貧乏であんまり飲めなかった学生時代を除いて、続けて酒を抜いたことがどれくらいあったろうかと、思い出してみたんですが、
昔、ソルトレイクってところで、CGの制作をしたときに、連日徹夜になったのと、この街の多くの人が入信している宗教の宗派が、酒飲んじゃいけなくて、どこに行っても酒が置いてなかったことがあって、この時、多分5日間ほど飲めなかったのが最長だったんじゃないかと思うんです。
そんな私がですよ、一カ月も酒を抜くことができるのだろうか。2月に入って、2週間ほどが過ぎましたが、私もAZさんも今のところ挫折してません。禁断症状とか出るとやだなと思ってたんですが、そう決めてしまうと意外と大丈夫で。まだ油断はできないですけど。
ともかく、それなりに長く生きてきて、何だってこんなに酒と切っても切れないことになってしまったのか。物心ついてから、どうして酒を飲み続けているのか。納得していただくに、有効な理屈はこれと云ってございません。
「酒呑みの自己弁護」という、山口瞳先生の名著がありますが、痛く共感したのを覚えております。
酒呑みというのは、「ちょっと一杯やるか。」という呼びかけに、無上の悦びを覚えます。ちょいと気の利いた肴でもあれば、この上ないです。そして、言ってみれば、いつまでも飲んでいられます。それが、気の合う仲間となら最高ですし、ある意味、たいていの場合、誰とでも、二人でも三人でも大勢でもいいし、一人でももちろん、かまいません。
酒には、嬉しかったり楽しかったりする気持ちを増幅する作用があり、盛り上がるとドンチャン騒ぎにもなります。ただ、不機嫌だったり、哀しかったり辛かったりする気持ちも増幅されますので、ちょっと良くない酔っ払いになる事もあるんですが。それに、適量を過ぎると、わりと、しばしば過ぎる傾向にあるんですが、迷走することもあります。
ということで、酒が人生にとって、どうしても必要かというと、そんなこともなく、プラスになる時もあればマイナスの時もあります。トータルで云えば、どっちもどっちと云うことでしょうか。でも、飲んでしまうんですね、習慣的に。
昔、この仕事を始めて、間がない頃、あこがれの鈴木清順監督があるビールのCMを作られたときに、制作進行で付かせてもらったことがあって、もう、そばにいれるだけで、ただ幸せだったんですけど、何だか心に沁みるいいCMだったんですね。
焼鳥屋のカウンターで、大人の男が一人(高橋悦史さんなんですけど)ビール飲んでるだけなんですが、その店の壁に女の人の絵があって、ふっとその絵を見るみたいな話で、そこにナレーションが入って、
「酒、煙草、女、ほかに憶えし事もなし・・・」 って云うと、
トク、トク、トク、とビールが注がれるわけです。
駆け出しの男としては、なんかいいよなあ、男だよなあとか思ったわけですよ。
つまり、この頃すでに、私の価値観には、男の人生には酒というものが組み込まれてるんですね。そして、ずっと組み込まれたままなんです。
煙草はやめれたんですけど、だから酒もやめられるんじゃないかと云うと、それとこれはちょっと違う気がしますね、やはり。
酒やめたら、もしかしたら、健康診断の数値が良くなって、健康になって長生きできるかもしれないけど、別の意味での健康を損なってしまうかもしれない。世の中には、酒を飲めない人も、酒が嫌いな人もいて、そういう人でとても仲良くしている人も結構いるんですけど、自分が酒と縁を切る事は出来ないんだろうなと思うわけです。
私なりの、なんの説得力もない自己弁護ではあります。
ということで、一ヶ月間、断酒できたとして、そのあと画期的に人生が変わるとは思えないのですが、ともかく、見たことのない景色を見てみようと云う、未踏域への冒険のような気持ちでいるわけです。
大げさですけど。
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