クレイメーションの達人が、、
この前、アニメーションのことを少し書いたんですけど、このアニメーションという技術は、ある部分において私どもの仕事のかなり近いところにありまして、いろんな機会に接することも多いんですね。若い頃にアニメーションのCMの仕事で、すごく世話になって、いろんな事を教えてもらったアニメーターで、森まさあきさんと云う方が、急に先月、病気でお亡くなりになりました。享年69歳という事でして、ずいぶん驚いて、お別れの会に行ったんですけれども、本当にもっと話を聞いておけばよかった人でした。
そもそも彼と出会ったのは、お互い30歳くらいの頃でしたが、私はその頃、売れっ子CMディレクターの岩下俊夫さんと一緒に、PARCOのバザールのCMをいろいろ作ってまして、今度は立体アニメーションの映像でやりましょうか、などという話をしておりました。
時代的には、海外のミュージックアーチストのプロモーションビデオが、たくさん出て来た頃で、かなり斬新で刺激的で、ずいぶん影響を受けておりました。当時、私はイギリスのアーチストのピーター・ガブリエルの”Sledgehummer”という曲のPVをビデオに録画して、よく持ち歩いたりしておったんですね。
その映像は、このアーチストが唄っている顔の周りに、いろんな素材の立体アニメーションが動き続けており、それは硬質の素材だったり、野菜だったり、フルーツだったり、魚だったりして、彼の顔も、やがて立体アニメーション化して行き、それはクレイアニメーションになったりして、そのすべての動きが音楽とシンクロして、かなり独創的な仕上がりになっていました。
ともかく楽しくて、こんな気分の15秒CMが作れないかなあと思っていたんですけど、そんな時にディレクターの岩下さんから、クレイアニメーションで次々に姿を変えてゆくオブジェが主役の企画コンテが上がって来たんですね。
やりたいイメージはいろいろに浮かんでくるんですけど、さて、実際にどうやってクレイを動かして撮影するのか、クレイを変形させながらコマ撮り撮影するとして、粘土の選択から造形と動かしまで、そういったプロはどこにいるのか、実はあんまり時間もない。その時、アニメーション会社のプロデューサーが連れて来てくれたのが森さんだったんですね。この時、初対面のこの人の印象は、なんだか近所にいる明るいおばさんていう感じの人でして、おまけに、仕事上必要なのか、いつもエプロンをかけてらっしゃいました。
彼は同世代ですけど、本当によくアニメーションのことを知っていて、同じくらい特撮技術のこともよくわかっていて、そのころ毎日クレイでいろんな造形物を作っていたので、同時にクレイ作家でもありました。やりたかったことに、この人が来てくれたら、まさに鬼に金棒です。
当時としてはかなりユニークなCMの映像ができ、それに音楽は鈴木慶一さんが作ってくださって、バザールの告知なんでオンエア期間は短いんですけど、なかなかに目立ったキャンペーンになりました。
そこで、これは続けて作りましょうということにもなり、今度は粘土じゃなくて、例えば電子機器の部品とか、様々な物質でオブジェを作って、それがなおかつ変身していくみたいなシリーズになって、何本か作った時に、広告の賞を頂いたりもしました。当然ながら、そのコマ撮り撮影のアニメーターは、全部、森さんがやってくれたんですね。
その後、彼はアニメーターとしてどんどん忙しい人になって行き、クレイキャラクターの作家としても、有名な人になって行きました。特に、フジテレビの「とんねるずのみなさんのおかげです」の番組オープニング「ガラガラヘビがやってくる」は、企画演出、キャラクターデザイン、アニメーションまでやって、代表作になりました。
彼はキャラクター造形やア二メーションをやりながら、東京造形大学の専任教授となって、学生へのアニメーションの教育指導にも励みました。昔のようによく会うことは無くなったんですけど、うちの会社でやるパーティーなどにはよく来てくれて、いろんな話を聞かせてくれました。この人はアニメだけじゃなく、映画とか映像全般にわたって博学でして、会うと私の知らない事を教えてくれました。
コロナなんかもあって、なかなか会えなくなっていて、でも今年も彼の作ったキャラクターの年賀状もいただいていて、そういえば今年はヘビ年で、相変わらずお元気そうだなと思っていた矢先でした。
お別れの会には、そんな事で、あわてて集まって来た仕事仲間たちがたくさんいて、それもみんな懐かしい顔で、いろんなこと思い出しながら、いろんな話をしたんだけど、そこに主役はおらず、彼が作った作品がモニターから次々に流れていました。
なんだか久しぶりに、あの頃に森さんと作ったCMを、ただ眺めておったようなことでした。
だが、上手いんだな、これが。