河豚の旅
去年の終わり頃、11月だったか、仲間と4人で飲んでいた時に、私の故郷の広島の話になって、そしたら、その仲間の一人のトシオさんが、広島とか山口とか今まで行ったことがないので、是非一度行きたいと云い始めました。
そしたら一緒にいたフジヤンという人が、それだったら広島でカキ、下関でフグがいいかなと、一番うまいのは真冬だから、2月頃に行ってみようかと言い始めました。
そしたら一緒にいた兄貴分のヤマちゃん先輩が、下関にたしか良い居酒屋があったのを、何かで読んだことがあると言い始めて、いつものことだが、なんだか妙に盛り上がってしまいまして、2月に広島下関に旅することになってしまったんですね。
そこで、山陽路は私の地元だし、なんとなく2泊3日の日程で計画立ててみたんです。
2月には、ちょうど私は広島にいろいろと用事があって、それは義母の17回忌の法要であったり、実家の確定申告の打ち合わせとか、父母の介護のことだったり、さまざまなんですけど、数日広島にいなければならないので、その用事が終わった頃に、友達が3人やってくれば良いかなと思いまして、そのように計画したんですね。
まず、2月の後半に天皇誕生日の3連休があって、その初日にうちの家族4人で早朝に東京を出発して、広島のお寺に向かいました。お昼過ぎに法要があって、そのあと、身内の少人数で義母も義父も馴染みだった近くの料理屋さんで懐石料理をいただきましたが、これが大変に立派なコースで、河豚のお刺身などたくさんに出てきまして、なんだかこの旅は、河豚にご縁がありそうだなと思ったんですね。
ただ、その日の夜に、私、鬼の霍乱というやつで、なんだか8度ほど熱が出まして、それから下痢嘔吐、そういえば広島に来る前の週に、わりと毎日飲み歩いてたこともあってそのせいか、せっかく頂いたご馳走は、みな体外に出てしまいました。
家族は仕事もあるので次の日に東京に戻りましたが、私はホテルでじっとして、きつねうどんだけで大人しく過ごしましたんです。
その次の日は、いろいろやんなきゃいけないことがあったんですけど、根が丈夫なのか、そのあたりで体調も戻り始め平熱になっておりました。
それから、その翌日が最も忙しい日でして、たくさん人にも会い、あちこち走り回りましたが、夕方には、あらかた要件も済み、ひとり生ビールでお疲れさんができておったわけです。
でもって、その次の日、いよいよ東京からの三人衆が広島にやって来ます。この人たちは、このブログにもよく登場するんですが、私のずいぶん若い頃からの、仕事でのお仲間でして、役回りはみな違うんですけど、なんせ長いお付き合いなんですね。そいで、みんなして呑兵衛なわけです。
私が広島に住んでいたのは、中学の途中から高校出るまでだったんですけど、この街の出身者として、ここを訪れた人を必ず案内するのは、広島平和記念公園と資料館、と厳島神社です。そこには訪れる意味があります。
そして食べるべきは、牡蠣、穴子、お好み焼きとなってまして、その夜、三人衆がまず食したのは牡蠣です。お連れしたのは、公園の川面を眺めながらの地元でも有名な専門店で、牡蠣のコースに生牡蠣も好きなだけ食べられます。
ただ、私、先だっての発熱でお腹を壊したので、うちの奥さんから、
「絶対に、カキだけは食べないように!」と、固く云われておりまして、
皆さん大喜びでしたが、私は一人瀬戸内の魚の煮付けなどを食しておりました。
「明日は下関で河豚刺し食うぞお!」などと吠えながらです。
その次の日は、朝から厳島神社参りをいたしまして、ここは朝から名物「あなご丼」ということになります。宮島口という駅でフェリーに乗り換えるのですが、その港の近くに有名なあなご料理屋があることを、うちのカミさんが教えてくれてたので、そこにちょっと並んでから頂いたのですが、いや、絶品でしたね。白焼も追加して朝からぬる燗もいってしまいましたから。
その後、船で島に渡りまして、長い参道を抜け、長い神社の回廊を巡り、その景観に感動し、見物を終え、そしてまた長い参道を戻り、帰りの船に乗る手前で、お好み焼き屋を見つけ、皆で生ビールもいただき、やがて、山陽新幹線「こだま」で広島から山口へと向かいます。さあ、河豚だ。
下関というところには降り立ったことがなく、なんだかこの辺り来れば、フグなんだよなということだけインプットされていて、いい歳して教養が浅くて恥ずかしい話なんですが、ともかく、さあ河豚だということで、皆で近くの銭湯行ってきれいになって、さあ河豚だあ、と。
東京で暮らしているとですね、フグでも食おうということになると、銀座赤坂あたりの小洒落た専門店で、紅白粉つけたちょいと綺麗な中居さんあたりにお給仕されたりしていただくと、ちょっと目玉が飛び出るようなお値段になるんですね。よく分かってはいないんですが、昔からトラフグと云えば、豊後水道とか下関のイメージありますよね。
そのヤマちゃん先輩が知っていた駅の近くの居酒屋は、なんだか、ただただ下関のうまいもの食わせて飲ませることに特化した、全く気取りのない良い店でして、何食べてもうまくて、そして、その河豚は質も量も絶品なわけでした。シアワセ。
次の朝、フジヤンが提案した過ごし方は、地元の唐戸市場の食堂で朝メシ食おうということで、窓越しに市場の全景とピンピンの魚の泳ぐ水槽の見える席で、またしてもフグ刺・フグ唐揚げ・フグあら炊きのフグ定食。またしても生ビールに地酒。朝からシアワセ。
君たちいい加減にしなさいと云われそうな、なんだか書いていてもちょっと恥ずかしいような旅ではありましたが、河豚に導かれて本州の西端まで行ってしまいました。