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2008年12月19日 (金)

マリンの出産

暮れも押し迫って、何かとあわただしい12月のとある日、愛犬マリンに子が生まれました。

マリンは4歳のトイプードルです。男の子一匹を出産したのですが、これが大変でした。大変だったのはマリンなのですが、私たち人間も、家族全員で徹夜になりました。

というのも、思いの外の難産だったからです。犬印の腹帯は、安産の印で、犬はいつでも安産などという例え話は、大きな間違いだということがわかりました。犬を飼っている知り合い何人かにも聞きましたが、わりとみんな安産ではなかったといっていました。やはり、野山を走り回ってた頃の犬とは違い、都会のマンション暮らしのワンちゃんたちは、事情が違ってきてるのだろうと思います。運動不足なんですね、きっと。

数日前から、インターネットで、犬のお産の記事を読み、ブリーダーさんにも獣医さんにも相談して準備を始めました。家族の中でもっとも熱心なのは妻です。やはり唯一の出産経験者だからでしょうか。私などはつい数日前まで、「えっ、うちで産むんだ。」「産婦人科じゃないんだ。」とか言って、ひんしゅくを買っておりました。

その日はいわゆる予定日で、早めに帰宅しました。晩御飯を食べたあとあたりから、陣痛が始まりました。昼間より夜間出産することのほうが、圧倒的に多いそうです。はじめは、落ち着きがなくなって、家の中を歩き回りながら鳴くようになり、お産用のダンボール箱に入っている時間がだんだん長くなってきます。それからは、時々苦しそうにするので、さすってやります。そうこうしているうちに、夜中になったのですが、まだ産まれる気配はありません。予習した知識では、とっくに深めの陣痛がはじまってるころなのですが・・・・

夜中も3時を過ぎ、家族全員で不安になったので、担当獣医さんに電話をしました。留守番電話です。この獣医さん、この界隈ではちょっと有名な獣医さんで、なんて言ったらいいか、サービス業的なところがまったくないというか、診療所もきれいじゃないし、連絡もなかなかつかないし、基本的に愛想がないし、しゃべると横柄な感じだし、近所では「赤ひげ」とあだ名をつけられたりしてるんです。ただ、腕はいいんですね、これが。

まあ、案の定連絡が取れないんです、やっぱり。

相当不安になっていた午前4時頃、何の前触れもなく突然ピンポンがなって、赤ひげがあらわれました。陣痛が深くなって産まれやすくする処置をテキパキやってくれました。

「これで明け方までに産まれるといいがなあ、ガハハハハッ」とかいいながら赤ひげは去っていったのですが、確かにその後からマリンは深く苦しみ始めます。

でも、産まれないんです夜が明けても。

家族全員で励ましながら、かなり衰弱しているのがわかります。相当心配になって7時半頃また赤ひげに電話をしました。やっぱり留守番電話のままで連絡が取れません。しばらくいらいらした頃、突然、赤ひげから電話がかかりました。いつも突然なんだよなあと思いつつ、声を聞いたときは、地獄に仏でした。

「そうかあ、産まれないかあ。すぐ連れに行くから家の前で待っとくように。」

電話を切って、マリンを抱いて家の前に出たら、もう赤ひげの車は停まっていました。

まったくこの人、遅いんだか早いんだか。

私たち家族は、ただ、ただ、マリンの安否が心配でした。

徹夜明けのまま出社した私に、夕方妻から連絡があり、帝王切開で手術をおこなったこと、胎児が産道に引っかかってかなり危険だったこと、でも、母子ともに助かり、さっき赤ひげと帰ってきたこと、赤ひげが一部始終を、鼻の穴を膨らまして語ったことなどを、おしえてくれました。

帰宅すると、麻酔でぐったりしたマリンと、ティッシュの箱にホカロンといっしょに入れられた120gの息子がいました。

ここで聞いた話が、かなり心配な話でした。

つまり、帝王切開を受けた母犬は、自然分娩した犬に比べて、子供を産んだ実感をもてないことがあり、まして大手術で消耗しきっている上に、麻酔も残っているので、子供を近づけたときに、噛み付いたりすることがあるというのです。げんに病院で近づけたときには、払いのけたそうで、もしも噛み付いたりしたら、120gの命はひとたまりもありません。

それじゃ近づけなきゃいいのかというと、それもだめで、離したままにしとくと育児放棄につながるというのです。

この親子対面の儀式は、私がやることになりました。妻はいろいろあって疲れきっているし、子供はマリンを抑える自信がないし、だいたい子供二人とも期末テストの真っ最中で、昨日のお産の徹夜で、今日受けた教科は完全玉砕したとか言ってるので、はやく勉強しろっちゅう感じなのです。

緊張しました。4年間いっしょに暮らしたマリンは、疲れ切っていて今まで見たことのない顔つきになっており、全然別の人格(犬格)になってしまってます。

まず右手でマリンの口を押さえて、左手に120gをのせて近づけます。まったく母親のリアクションはありません。だんだん臭いを嗅ぐ仕草をしますが、すぐ関心を失ったかのようになります。ころあいを見計らって、口を押さえている右手をそっとはずしてみますが、なめようとはしません。だんだん顎の下に置く時間を長くします。1時間ほどしたときに、ちょっとなめました。ちょっとしてもう一度なめました。そして、ついに、自分の前足で抱いてペロペロペロペロ、なめたんです。なんだか昨夜からのことが走馬灯のようにめぐりました。涙がポロポロでました。おっさん久しぶりに泣いた。

「えらかったなあ、マリン。」  何度も言ってました。

それから母犬は、自分の体力の回復もそこそこに、かいがいしく子の世話を続けました。

その後、少し落ち着いたときに妻が言いました。

「マリンも、一人で産んで、一人で育ててるんだね。」

確かに、そこに父犬はいません。自らの子育てを思い出しているようでした。Marin_2

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