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2023年6月23日 (金)

日本全国に新一年生は200万人いたのだ

この前、書いたテレビの番組のことなんですが、その番組を見ていて、なんとなく自分も昔これと似たような仕事をしていたなと思ったのですね。それはテレビのCMの仕事だったんですが、「小学一年生」という学習雑誌のコマーシャルで、“ピッカピカの一年生”と云えば、覚えてる方もいるかもしれません。
1978年に始まって、ずいぶん続いた広告キャンペーンでして、私はかけだしのADの時から約10年、途中からディレクターもやって、プロデューサーもやって、その仕事に長く関わりました。
今もそうですけど、毎年4月には日本中の6歳児が一斉に小学校に入学するわけで、それはそれは世の中じゅう祝福ムードになるんですけど、その春に向けて、その子たちにテレビでメッセージを言ってもらいましょう、という企画です。
その頃、今度小学校に入学する子供達は、全国に200万人もいたんですが、私たちは北は北海道から南は沖縄まで、毎年、秋から春にかけて日本中走り回って、本物の新一年生を取材しておりました。
当時テレビのCMというのは、商品や出演者などをいかに美しくクオリティーの高い映像で撮るかということが最重要であり、必ず35m/mの映画用のフィルムで撮影しておりまして、1カット1カット、用意、スタート、アクション、はいカット、はいもう一回、みたいな撮り方をしてたんですね。でも、この一年生の仕事は、えんえんとビデオ回して収録するやり方で、画もテレビのニュースのような画質だし、多分にドキュメント的なタッチで、明らかに他のCMとは違ったCMになってました。
というようなことで、このコマーシャルで最も大事なことは、登場する子供達の嘘臭くない本物のリアルな存在感ということでした。ただ、云うのは簡単だけど、実際にどうやって撮影したら良いのだろうか、というところからこの仕事はスタートするんですね。このキャンペーンを企画したのは、この出版社の宣伝部の若い人、広告会社の若い人たちで、あんまり6歳児をわかってる人がいなかったんです。もちろん、私もそうでしたし。
あの時代、いろいろなモノの作り方も、今と違ってかなりアナログではありまして、このコマーシャルも、まずどのあたりに暮らしてる子供を撮りたいかを決めたら、まずそこに行ってみてウロウロしてみる。全国の小学校の名前と所在地と児童数が載っているリストがあって、それを見ながら、どの町や村にどんな学校があるか探ってみる。たとえばこの小学校に来年入学する子どもたちはどこにいるか。たいてい、そのあたりの保育園か幼稚園にいるはずだから、そこを訪ねて行ってみる。そこで今度一年生になる子に会わせてもらって、いろいろ接してみる。それを何ヶ所も繰り返して1週間くらい、場合によっってはもうちょいとかかることもあるけど、そうやって集めた小学校と子供達の写真を見ながら、今回の収録をどちらの学校と、そこに行くどの子供達でさせていただくかを決めて、お願いに上がり、それから何日か後に、実際にVTRとカメラとスタッフを連れて行って撮影をするわけです。
たいていの場合、今度入学する小学校の前で、カメラに向かって一人一人コメントを言ってもらうのだけれど、6歳の子供が入学に向けて自分で考えた気の利いた一言とか言えるわけもなく、そもそも、15秒のコマーシャルで4秒の商品カットがあり、3.5秒のサウンドロゴもあって、約7秒で収まるちょうど良いコメントとか、なかなか難しいんです。
そこで、前もってたくさんの言葉を考えておきます。
「こんど〇〇小学校に行く、〇〇〇〇です。よろしく!」
「学校行ったら、給食いっぱい食べるぞお。」
「一年生になっても、〇〇ちゃん仲良くしてね。」     
「おばあちゃん、ランドセルありがとう。」
「体育がんばるぞお、鉄棒がんばるぞお!」
「〇〇小学校の校長先生、よろしくお願いします。」
とかとかいろいろですけど、そこでテレビに向かって何を言うのかを一人一人と相談して決めていきます。できるだけその子の喋り方で、方言とかもあらかじめ調べておいたりして、その子が言いたいことを、できるだけ自然に収録できるようにトライするんです。
ただ、相手は役者さんやタレントさんとかじゃなくて、普通にどこにでもいる子供達なんで、やってるうちに飽きちゃったり、忘れちゃったり、眠くなったり、妙に興奮しちゃったり、いわゆるアクシデントもあって、どうにかこうにかいろんなタイプのテイクを拾っていくわけです。
そうやって回し続けたVTRを東京に持ち帰り、15秒サイズのCMに編集したものを何タイプか作って、試写をやって放送するタイプを決めていきます。
このコマーシャルは、この学習雑誌の発売日の告知CMでしたから、それほど出稿量が多いわけではなかったのですが、入学の時期が近づくとテレビで流れることになる、ある意味お馴染みのCMで、何かと話題になることが多いコマーシャルでしたので、子供達からすれば自分たちが関わったものが、ある時期テレビから流れるというのも、なんとも不思議な体験だったでしょうし、少なからず彼らの暮らしにも何らかの影響を与えたと思います。良い影響であればよかったですが。
なんだか、ある日突然、自分たちのエリアに、普段見かけないオジサンたちが、遠くの街からカメラかなんか持ってやって来て、一日付き合ってあげて面白かったけど、なんか人騒がせな人たちだったな、みたいなこと思ってるんじゃないだろうか。
当時、自分にとってあの子供たちというのは、まさに宇宙人みたいな存在で、すごくいろんなことを感じさせてくれ、想像してなかった多くのこと、教えてもらいました。今となっては、あの10年、ほんとにいろんな場所に行って、そこでたくさんの人たちに出会った、とても懐かしい仕事です。
ただ、今の時代、あんな風に思いついた時に、突然訪ねて行ったところで、急に取材させてもらって、撮影に来るような仕事のやり方は、今は絶対に無理だと思いますけど。

Pikapika_2

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