前略ショーケン様
この3月に、ショーケンこと萩原健一さんが亡くなりました。厳密には4歳上ですが、自分と同世代の有名芸能人で、こっちが物心ついたころから有名な方でしたから、なんだかちょっとしんみりしたとこがありまして、特にお会いしたこととかはなかったんですが、不思議な喪失感がありました。このごろでは68才って、まだ若いですしね。
1967年といいますと、私は中学1年生でしたが、彼は、ザ・テンプターズのヴォーカリストとして、デビューしたんですね。
このころ日本中で、グループサウンズブームというのがありまして、たくさんいろんなグループがあったんですけど、テンプターズは、その中でもかなり人気上位にいて、若い女の子たちがキャーキャー云ってました。このブームは明らかに若い女子をターゲットにしたものでして、バンドのメンバーはみんな長髪で、衣装もどっちかといえば、可愛らしい系でして、今で云えばジャニーズのアイドルたちがバンドやってるようなもんでしたね。ショーケンとか、ザ・タイガースのジュリーこと沢田研二さんとかは、その中でも、1、2を争うアイドルだったわけです。
萩原さんは、その頃アイドルとして騒がれたり、追っかけられたりすることは、ほんとは、いやだったと、のちに話しています。そんなことで、当時男子中学生だった私も、あんまり関心はなかったんですけど。
それから1970年頃には、早くもグループサウンズブームは去り、テンプターズも解散します。すごい人気だったけど、わりと短かったんですね。その後ショーケンは音楽も続けますが、仕事を俳優の方にシフトしていきます。1972年に岸惠子さんと共演した映画が高評価を得て、TVドラマの「太陽にほえろ」や「傷だらけの天使」で、その人気を確立するんですね。
4月に、脚本家の倉本聰さんが、新聞に「萩原健一さんを悼む」という文を書いておられました。
倉本さんがショーケンと初めて仕事したのが、1974年の大河ドラマ「勝海舟」だったそうですが、その時、岡田以蔵役をやった彼が、
「坂本龍馬に惚れてるゲイの感じでやってみたい。」と提案してきて、
以蔵が龍馬の着物を繕うシーンで、縫い針を髪の毛の中にちょいちょい入れて髪の脂をつけるしぐさをして見せた。龍馬への愛をこんなアクションで表現するのかと、驚いたそうです。
それから、1975年のTVドラマ「前略おふくろ様」は、ショーケンからの指名で脚本を担当することになったそうです。ショーケンが演じる若い板前が、調理場の後片付けでふきんを絞ってパーンと広げて干すといった何げない一連の所作が実にうまく、普通の人にはない観察眼を持っていて、生活感をつかむのがとても巧みだと感じたそうです。それを直感的に演じるひらめきは天才的で、勝新太郎によく似ていたと。
本読みでも、彼はいろいろアイデアを出してくるけど、それが大体正しい。人の意見も素直に受け止めるし、本当に面白かったと印象を語っています。
ただ一方で、彼には飽きっぽいというか、欲望に忠実に行動してしまう一面があり、現場で様々なトラブルもあったようです。
彼が亡くなって、桃井かおりさんがショーケンを
「可愛くて、いけない魅力的生き者」だと追悼するコメントを出しましたが、まさにその通りで、役者としては天才的だけど、人としてはいろいろよくないと。
そして、70年代に出てきた、ショーケン、かおり、優作ら同世代のギラギラした若い役者たちには、明らかに上の世代とは違った「はみ出し者」の輝きがあり、役者としての力がある彼らを、受け止める力量を持った制作側の人間もだんだんいなくなった。芝居がわかっている者は一握り、タレントばかりになってしまった。ショーケンの死は、そんな時代を象徴しているように感じます。と、結んでおられます。
そういえば、この人は出演した作品で、いつも独特な存在感を示し、話題を提供し常に注目されていました。でも、薬物の不祥事などで問題を起こす人でもあり、時々トラブルがあって、世の中から姿を消してしまうこともありました。結婚も何度かされています。倉本さんの新聞記事を読んで、そういえば何年か前に、この人自身が出した自伝があったなと思い、本棚を探したら、2008年に、まさに「ショーケン」という自伝が出ていました。10年ぶりに読んでみましたが、あらためて激しい人生だなと。
いつも表現者としての居場所を求め、成功があり、トラブルがあり、世間の目に晒され、ずっとその存在を感じさせ続けた同世代のスターだったんですね。思えば50年余り、彼はものすごい数の作品を残しているわけです。そのうちのどれくらいの本数を見たのか、すでによくわからないですけど、多くの人の記憶にいろいろな形でその姿を刻みつけていることは確かです。
その中で、個人的にもっとも強く残っているのは、倉本さんの話にあったTVドラマの「前略おふくろ様」です。私はちょうど大学生でしたが、毎週できるだけ欠かさずに見ておりました。主人公のサブちゃんは、自分と同年代の設定でもあり、やけに感情移入していたし、共演のキャストも実にみな魅力的でした。田舎から出てきた若い板前の成長物語が丹念に描かれており、そのドラマの背景に故郷で働くおふくろ様がいて、そのおふくろ様には認知症が始まっているという、忘れることのない名作でした。そして、主人公の片島三郎の役は、ショーケン以外は考えられません。
表現者として多くの作品に関わり、観る者に何かを残し、いろいろ問題もあった人だったけど、やはり、失ってみると惜しい人だったなと、思ったんですね。
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