六本木のバー“BALCON”のこと
“バルコン”のマスターの良川さんから突然連絡があったのが2月の半ばでした。
電話があるのは特に珍しいことではないのですが、問題はその内容です。
「急ですが、明日で“バルコン”を閉めます。」というもので、これには些かあわてました。
急すぎますよほんとに。
なにせですね、六本木通りの明治屋の裏手にこのバーができて31年、
私が通い始めてからだって25年くらい・・・・多分。ていうくらい長い歴史のある店なのです。
聞けばほとんど誰にも知らせてないっていうし、だいたいどうして閉めちゃうのか。
でも良川さんてそういう人なんですよ、考えてみると。
そういうこと前もって誰かに話すような人じゃないんですよ。
ちょっと鶴田浩二とか高倉健みたいなとこあるから。
かくして、六本木の名物バー“BARCON”は最後の夜を迎えました。
ほとんど知らせていないわりには、ことがことだけに噂の伝達力はなかなかのもので、
かなりの常連客で店は埋まり、深夜まで客が絶えませんでした。
この夜現れたのはほとんどが私たちCM業界の人たちでした。
“BALCON”が長い間、いかに業界の皆さんに愛されたバーだったかがわかりました。
待ち合わせたり、偶然だったり、初対面だったり、ここで会った人々、スタッフ、同業者、
広告会社、クライアントのみなさん。
本当にいい意味でここは溜まり場でした。
理由はいろいろ考えられます。酒好きバー好きの人たちが満足するお酒の品揃え、
腹が減っていても大丈夫な気取らない中華のメニュウの数々、おちつけるインテリアと照明、
遅くまで飲み食いできること、安いこと、店が込んでいても立ち飲みで十分な店のつくり、
そしてなによりマスターの人柄。
携帯電話の無い頃、夜中に飲みにくると仕事の伝言が何件も入っていることがありました。
ストレス発散が昂じてお決まりのドンちゃん騒ぎになったり、熱く語りすぎて大喧嘩になったり、
ほんとにいろいろご迷惑もおかけしました。
いつ行ってもこの店は何も変わりませんでしたし、それが魅力でした。
大テーブルの中央にあったロウソクの塊は、少しずつ大きくなって最後はすごいことになってましたけど。
思いついたときにぶらっといけて、短い時間でも長い時間でもいれて、思いがけない人に会えたりもして、
無くなることになってはじめてこのバーのありがたみがわかりました。
良川さんが言ってましたけど、若い人があんまりバーに来なくなってるのは確かなようです。
仕事大変だし、何かと忙しいし、お酒を飲む以外にもいろいろ楽しみもできているのでしょう。
僕らも昔ほどは飲んでいないですよね。
でもやっぱりバーのある文化って言うと大げさですけど、
こういう場所って必要なんじゃないかなって思うんですよ。いろんな意味で。
いずれにしても最近かなり残念な出来事でした。
2004/3
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